2026年8月10日(月)
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キオクシアの株価を「通常はいくらか」分析-高値から53%下落した今は本当に安値か?

2026年7月17日、キオクシアホールディングス(285A)の株価は前日比16.10%安の52,110円で取引を終えた。6月22日につけた高値112,700円から、53.8%の下落。1か月弱で時価総額の半分、約28兆円が消えた。

ただ、この記事で伝えたいのは「暴落した」という事実ではない。

むしろ逆だ。53%も下がったあとの株価が、それでもまだ「通常」の3.4倍の水準にある。その事実をどう考えるか、という話である。

まずは結論から

難しい話は後にして、結論の数字だけ先に出す。

株価が「高いか安いか」を測る代表的なものさしに、PER(株価収益率)がある。詳しい説明は後述するが、数字が小さいほど割安、大きいほど期待が乗っていると考えてもらえればいい。

目安はこうだ。

PERの水準 評価 意味
15倍前後 通常 日本株の平均的な水準
20倍前後 将来性あり 成長を少し織り込んでいる
25〜30倍 期待あり はっきりと成長を見込まれている
40倍以上 非常に期待 相当な成長が前提になっている
51.3倍 異常な期待
← キオクシアの現在地
期待が外れたときの下げ幅が大きい

53%下がったあとで、まだここにいる。それが現在地だ。

PERとは何か

計算式は単純である。

PER = 株価 ÷ 1株当たり純利益(EPS)

意味は「今の利益水準が続くとして、投資したお金を回収するのに何年かかるか」。

PER15倍なら15年、PER50倍なら50年である。50年かけて回収する値段を今払っているということは、それだけ「これから利益がもっと増えるはずだ」と市場が信じている、ということになる。

キオクシアの実績を見る

誤解のないように書いておくと、キオクシアの業績自体は極めて好調だ。

2026年3月期の実績はこうなっている。

  • 売上収益:2兆3,376億円(前期比37.0%増
  • 営業利益:8,704億円(前期比92.7%増
  • 営業利益率:37.2%

営業利益がほぼ倍増している。生成AI向けの需要が背景にあり、財務体質も改善した。業績が悪くて売られているのではない。

そのうえで7月17日時点の指標を並べる。

  • 株価:52,110円
  • 時価総額:約28.5兆円
  • 実績PER:51.28倍
  • PBR:20.33倍

時価総額とPERから逆算すると、1株当たり純利益(EPS)は約1,016円となる。この数字を使って計算していく。

計算1:今の利益のままなら、いくらが妥当か

EPS 1,016円を動かさずに、PERだけを変えて株価を出す。

キオクシア PER水準別の株価

評価 PER 株価 今の株価との比較
通常 15倍 15,243円 今より71%安い
将来性あり 20倍 20,324円 今より61%安い
期待あり 25倍 25,405円 今より51%安い
期待あり 30倍 30,486円 今より41%安い
非常に期待 40倍 40,647円 今より22%安い
現在 51.3倍 52,110円

「通常」の水準まで戻るなら15,243円。53%下がったあとの今の株価は、そこからさらに3.4倍の位置にある。

計算2:利益が増えるなら話は変わる

ただし、これは「今の利益のまま」という前提での計算だ。

キオクシアは成長企業である。2027年3月期の第1四半期は、データセンター向け需要の継続を前提に増収増益の見通しとされている。利益が増えればEPSが上がり、株価が同じでもPERは下がる。

そこで2つのシナリオで計算した。

キオクシア 利益成長シナリオ別の株価

シナリオA:利益が1.5倍になったら

予想EPSは1,524円。今の株価52,110円は、予想PERで34.2倍にあたる。「非常に期待」の手前だ。

  • 通常(15倍):22,864円 — 今より56%安い
  • 将来性あり(20倍):30,486円 — 今より41%安い
  • 期待あり(25倍):38,107円 — 今より27%安い
  • 期待あり(30倍):45,728円 — 今より12%安い

シナリオB:利益が2倍になったら

予想EPSは2,032円。今の株価は予想PERで25.6倍。「期待あり」の範囲に収まる。

  • 通常(15倍):30,486円 — 今より41%安い
  • 将来性あり(20倍):40,647円 — 今より22%安い
  • 期待あり(25倍):50,809円 — 今とほぼ同じ
  • 期待あり(30倍):60,971円 — 今より17%高い

ここが重要な分岐点になる。

今期の利益が本当に2倍になり、かつ市場が「期待あり(PER25倍)」を許容し続けるなら、今の52,110円はほぼ妥当だ。

逆に言えば、そのどちらかが崩れれば、株価は下の水準に向かう。

2つの計算が示すこと

同じ株価に対して、まったく違う答えが出た。

  • 今の利益で見れば:通常の水準は15,243円。今はその3.4倍
  • 利益2倍を前提にすれば:50,809円。今とほぼ同じ

この差は計算ミスではない。今の株価の3分の2以上が「今期、利益が倍増する」という期待でできているということだ。

期待は事実ではない。だから確認が必要になる。キオクシアの次回決算発表は2026年7月31日を予定している。

なぜ売られているのか

ここまで数字の話をしてきたが、今回の下落には明確なきっかけがある。

米国発の構造的な懸念

エヌビディア(NVDA)は5月の高値から約2割下落、ブロードコム(AVGO)は6月の決算後に一時15%近く急落した。マイクロン(MU)とサンディスク(SNDK)は好業績を発表していたにもかかわらず、7月に入って売られている。

最も重い材料は、AI企業が自社で独自チップを開発しはじめたという報道だ。半導体メーカーにとって顧客だった企業が、自分で作る側に回る。需要の前提そのものが揺らぐ話である。

7月2日発表の6月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が5万7,000人増と市場予想の11万3,000人を大きく下回った。通常なら金融緩和期待で株式市場には追い風になる材料で、実際この日ダウは史上最高値を更新する場面もあった。それでも半導体株だけは下げている。

韓国のレバレッジETF問題

もう一つ、今回の下げを増幅させたのが韓国だ。

2026年5月下旬、韓国でサムスン電子とSKハイニックスを対象とする2倍レバレッジ型ETFが10本以上上場し、合計30億ドルの資金が集まった。日々の値動きの2倍に連動する商品である。

これが過熱した。7月上旬には、これらのETFと連動対象2銘柄で、約700兆円規模の韓国市場の売買代金の7割超を占めるまでになった。

崩れ方も激しかった。最大規模のサムスンKODEX SKハイニックスレバレッジETFは上場から約45%下落。KOSPIは過去最高値から約25%下げ、弱気相場入りが確認された。

7月16日、韓国当局が規制強化を検討していると伝わり、SKハイニックスは一時12.53%安。翌17日、韓国市場が休場だったため、先回り的に日本のAI関連株に売りが広がった。キオクシアの16%安には、この事情が含まれている。

市場の見方

現時点での専門家の見方は割れている。

野村証券の古川真チーフ・ポートフォリオ・ストラテジストは、7月15日時点で「調整は7合目ほどまできた」と指摘。過去1年の上昇率が高い銘柄を買うモメンタム戦略のパフォーマンスは6月22日にピークをつけ、7月13日時点で4月からの上昇分の6割を吐き出した計算になるという。

一方、大和アセットマネジメントの建部和礼チーフストラテジストは、押し目買いが出ても再び強く上昇するには材料不足で、不安定な動きが続くとの見方を示している。

なお半導体には、好況→在庫の積み増し→需要の鈍化→在庫調整→不況という約4年周期の循環(シリコンサイクル)がある。AI向け需要は別の力学で動いているという見方もあるが、メモリーについてはこの循環を今も繰り返している。2026年から2027年にかけて次の調整局面に入る可能性を指摘する声は少なくない。

この記事で伝えたかったこと

PERは、株価を「何年分の利益か」に翻訳してくれる道具である。

通常は15倍。将来性が評価されて20倍。はっきり期待されて25〜30倍。相当な成長が前提で40倍以上。

キオクシアは今51.3倍。53%下落したあとで、まだこの位置にいる。

これを「まだ高い」と見るか、「利益が倍増するなら妥当」と見るかは、7月31日の決算次第だ。ただ確実に言えるのは、今の株価は業績の実績ではなく、これから起きることへの期待で支えられているということである。

期待で買うなら、期待が外れたときにどこまで下がりうるかを先に見ておく。上の表の「通常」の行がその答えだ。

本記事の試算は2026年7月17日終値時点の公開情報にもとづく単純計算であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。実際の企業価値評価には、設備投資、負債構造、競合環境、為替など、ここで扱っていない多くの変数が関わります。投資判断はご自身の責任で行ってください。

📝 編集長メモ

キオクシアの株価が1か月弱で53.8%下落した。ただし業績は絶好調で、2026年3月期は営業利益が前期比92.7%増。悪材料は業績ではなく、米国でAI企業が自社チップを作り始めたという構造的な懸念と、韓国のレバレッジETF規制という需給要因だ。この記事の主眼は、その株価が高いのか安いのかをPERで測ってみることにある。PERは株価が利益の何年分かを示す指標で、日本株の通常水準は15倍前後。キオクシアは53%下げた今でも51.3倍で、通常水準に当てはめた15,243円の3.4倍にあたる。ただし今期の利益が2倍になれば話は変わり、50,809円まで正当化できる。つまり今の株価の3分の2以上は、これから起きることへの期待でできている。答え合わせは7月31日の決算発表になる。

💰 編集長の儲け話

私ならここでは買わない。ただし「二度と買わない」ではなく「7月31日まで待つ」だ。理由は本文の計算にある。今の株価は利益倍増を前提にしてようやく説明がつく水準で、その前提が正しいかどうかは決算を見れば分かる。分かる日が10日後に決まっているのに、その前に賭ける必要がない。もし決算で利益倍増が確認されて株価が上がったなら、それは正しい情報にお金を払ったということだから納得できる。外れて下がったなら、待った判断が正しかったことになる。どちらに転んでも困らない。 待つ10日間にやることも決まっている。決算短信の読み方を覚えることだ。具体的には、売上と営業利益だけでなく「会社側の今期予想」がどこに書かれているかを探せるようになること。株価を動かすのは過去の実績ではなく将来の見通しで、その見通しは短信の1ページ目に必ず載っている。今回のような場面で自分の判断を持てるかどうかは、その1ページを自力で読めるかにかかっている。証券会社の口座があれば決算短信は無料で読める。10日あれば、過去3年分を遡って読む時間としては十分だ。 もう一つ。韓国のレバレッジETFの件は他人事ではない。日本でも2倍レバレッジ型の商品は簡単に買える。あれは日々の値動きに連動する設計なので、上下に往復するだけで元本が削れていく。上昇が続く相場でしか報われにくい商品を、上昇の最終局面で買う人が最も多くなる。半導体が魅力的に見える今だからこそ、自分が買おうとしているのが「企業の持ち分」なのか「値動きの倍率」なのかは確認しておきたい。前者は決算で答えが出るが、後者は決算を待たずに削れていく。

※本コーナーは編集長個人の見解です。投資等の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。

桜坂武志

桜坂武志

もこもコラム 編集長

💰 編集長の儲け話 特集

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